ダイエット幻想 ──やせること、愛されること
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発行年月 : 2019年8月
著者 : 磯野真穂
出版社 : 筑摩書房
ダイエットそのものというよりはもう少し大きくジェンダー的な観点から、人がなぜやせようとするのかについてを解きほぐす内容で、とりわけそういうものが苛烈な世界であろうアイドルやらモデルやらといった女性を見るのが好きな自分はつまされるところがものすごく多い。反省せざるを得ない。
またダイエットや体系に限らず、個性やステータスやライフスタイルについて、いくら自分たちが自己満足だと思ってやっていることであれ、本質的にはいかに社会から発せられるメッセージに従って行動しているのか、とても考えさせられる。
気持ちを自分だけのものだと思いすぎると、私たちをとりまく世界が、私たちの気持ちを作っているという事実に気づきにくくなり、逃げるという選択肢がみえにくくなります。 (honto, 13%)
足の甲を高くして足を小さく見せる。その意味で、纏足は足そのものをハイヒールにしているともいえるのです。足が痛くてたまらなくなったり、豆ができたりといったことは「ハイヒールあるある」だと思いますが、そういう経験を通じて、ヒールを履いても全然平気になるような足を女性は作り上げていきます。ハイキングをしたり、ジョギングをしたり、スポーツをしたりするときにハイヒールを履く人はまずいないことから、ハイヒールがそんなに足に優しい靴ではないことは皆が知っているはずです。しかしそれでも脚のラインが綺麗に見えたり、背が高く見えたりといった理由からハイヒールを選ぶのです。 (honto, 16%)
私たちは、常に世界と交わりながら生きています。そしてその世界から、こうした方が良い人生を送ることができると様々な形で呼びかけられ、それに囲まれて生きていくうちに、その呼びかけをいつしか自分の内側からの呼びかけと考えるようになります。 (honto, 16%)
個性という、かけがえのない《わたし》を探していたはずなのに、そのかけがえのない《わたし》 は、同期を横一列に並べ、就職に有利とされるさまざまな資質の中で、頭一つ自分が抜け出たところに存在することになります。加えて就職活動の場合、個性を発見するだけでなく、それを面接官に認めてもらうスキルも必要です。つまり①他より優れているアピールポイントを個性として発掘し、②それを面接官に伝え、そうだと思ってもらう、というステップが就職活動における自分探しの最終的なゴールになるのですこの二つのステップの双方に、他者が入っていることに気づいたでしょうか。「自分探し」が《わたし》を見つめる作業ではなく、他人と《わたし》を比べたうえで、《わたし》が望む形で他人に認めてもらうことを求める作業になりやすいのはこのような理由によります。 (honto, 18%)
お腹が空いたという感覚に従って食べたら、また太るかもしれません。太ったら居心地の悪い声がまた飛んでくる可能性があります。だからこそあなたは必死で体重をキープしようとします。生理が止まるかも知れませんが、それよりもせっかく手に入れた《生の味わい》が《脅威》に変わることの方が怖いのです。これに拍車がかかると、周りの誰よりもやせていないと気が済まなくなり、誰よりもやせていることだけが自分の自信になります。すると今度は他者の声ではなく、数字で身体が満たされます。頭の中は今日の体重と、今日摂取した糖質量やカロリーでいっぱいになり、こんどは世界から他者が消えるのです。 (honto, 21%)
日本人女性は成人年齢をとっくに過ぎているにもかかわらず、なぜ時に子どもっぽいのか、という問いは、私たちがどういう社会で生きているかを考える上で、投げかけられるべきであると考えます。 (honto, 28%)
現代社会においてやせた身体が賞賛されるのは、やせた身体の中に「自己管理を怠らず健康を維持している」という、私たちの社会の中で理想とされる物語が埋め込まれているからなのです。 (honto, 35%)
数で表されたものは、客観的で中立的なものと考えられ、それゆえに説得力を持ちます。ですが、実際はそんなことはありません。何かが数えられるときそこには管理という独特な目線が入り込み、その目線の出所には、管理者が何を重要視し、何を軽視するのかという管理側の世界観があるのです。 (honto, 51%)